夕顔-103 はぢらひ

女は顔をあかくして、
「山の端の心も知らでゆく月は
うはの空にて影や絶えなむ
――お頼みしているあなた様の心もたしかめられないわたしは、
途中ではかなく消えてしまうのではないでしょうか
心細うございます」
という。恐ろしがって、怯えてもいるようだ。あの狭く建てこんだ住まいに住み慣れているからだろうと、源氏の君はほほ笑まれる。

   ***  ***  ***

女、はぢらひて、
「山の端の心も知らでゆく月は
うはの空にて影や絶えなむ
心細く」とて、もの恐ろしうすごげに思ひたれば、かのさしつどひたる住ひのならひならむと、をかしくおぼす。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-104 高欄

管理人に
車を中に入れさせて、西の対にくつろぐ場所を用意させる間、高欄に車の轅(ながえ)を引き寄せて、車を立たせていらっしゃる。

   ***  ***  ***

御車入れさせて、西の対に御座などよそふほど、高欄に御車ひきかけて立ちたまへり。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-105 えんなるここち

女房の
右近は華やいだ気もちになって、これまでの事なども胸の内で憶い出している。

   ***  ***  ***

右近、えんなるここちして、来しかたのことなども、人知れず思ひいでけり。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-106 知り果てぬ

家の預かりの者が大さわぎをしながら場所をととのえるのを見ていて、右近は男が誰であるのか、源氏の君でいらっしゃるのだとすっかり飲みこめてしまった。

   ***  ***  ***

預りいみじく経営しありくけしきに、この御ありさま知り果てぬ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-107 かりそめなれど

日が昇り、
うっすらと辺りの見え始めた頃に、車をお下りになられたようだ。座所は、仮のしつらえではあるが、さっぱりと美しくととのえられている。

   ***  ***  ***

ほのぼのともの見ゆるほどに、下りたまひぬめり。かりそめなれど、きよげにしつらひたり。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-108 口がため

家守りびとは、
「お世話するのにものをわきまえた者もおりません。困ったことです」
と恐縮している。源氏の君も親しんでいる下家司(※)で、二条の院でもお仕えしている者だったので、君の近くへ参上し、
「しかるべき者をお呼びしたほうがよいでしょうか」
などと右近を介して申しあげる。しかし源氏の君は、
「わざわざひとの来そうにない隠れ家を求めたのだ。これ以上は誰にも知らせてはならない」
と口留めをされる。

   ***  ***  ***

「御供に人もさぶらはざりけり。不便なるわざかな」とて、むつましき下家司にて、殿にもつかうまつる者なりければ、参りよりて、「さるべき人召すべきにや」など、申さすれど、「ことさらに人来まじき隠処求めたるなり。さらに心よりほかに漏らすな」と口がためさせたまふ。

   ***  ***  ***

◇薔薇@管理人の憶え書き◇

※下家司:しもげいし。「家司(けいし)」は親王・摂関以下三位以上の家家の家政をつかさどる職。いへづかさ。家司には五位以上のひとが任ぜられるのが普通で、それ以下のひとが任ぜられた場合に「下家司」といった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-109 息長川

粥などを急いで手配させるが、膳を運ぶ者の手も右近一人のこととて揃わない。女君を連れての初めての旅寝なので、「鳰鳥の息長川は絶えぬとも君に語らふこと尽きめやも」という歌のように、ふたりの行く末を約束される愉悦に浸るほかはないのだった。

   ***  ***  ***

御粥など急ぎ参らせたれど、取りつぐ御まかなひうち合はず。まだ知らぬことなる御旅寝に、息長川(※)と契りたまふことよりほかのことなし。

   ***  ***  ***

◇薔薇@管理人の御礼と憶え書き◇

※息長川:「鳰鳥の息長川は絶えぬとも君に語らふこと尽きめやも」『古今六帖』三、鳰。

いつも、遊びにいらしてくださり、有難うございます。
このところ、当ブログに遊びにいらしてくださる方が増えてきて、あらためて『源氏物語』と夕顔姫の人気にびっくりしています。皆さんに、もっと当ブログを楽しんでいただけるように、目下いろいろと思いをめぐらせています。どうぞ、これからもお付き合いください。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-110 闌くる日

日の高く昇った頃に起き出されて、格子を手づからお上げになる。

   ***  ***  ***

日たくるほどに起きたまひて、格子手づから上げたまふ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-111 遥遥と

格子の外は
荒れ果てていて、ひと影もなく茫々と見わたせる。木立が大そう気味わるく、年を経た姿をざわめかせている。

   ***  ***  ***

いといたく荒れて、人目もなく遥遥と見わたされて、木立いとうとましくものふりたり。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

夕顔-112 秋の野

近いところに植えられた木や草花は、これといって見る所もなく、一面秋の荒れ野の風情である。池も水草の茂るにまかせ、水の色さえちら、とも見えない。何ともおもしろくない、落ち着かないところであることよ。

   ***  ***  ***

け近き草木などは、ことに見所なく、みな秋の野にて、池も水草にうづもれたれば、いとけうとげになりにける所かな。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«夕顔-111 遥遥と